いちごなきもち、めろんなきもち
 
序章
 
 部屋の中から、艶っぽい声が聞こえてくる。
 薄暗い部屋の中、妖艶な女性が、淫らに乱れていた。
『いいのぉ、すごくいいのっ!』
 嬌声が高まってくる。
『ダメっ、イクっ、イっちゃうぅっ!』
 そして、クライマックスというところで──
「な〜お〜や〜」
 部屋の中に、地をはうような低く、恐ろしい声がした。
「げっ、菜緒……」
「なにをしてるのかな〜?」
 にこやかに、でも、目はまったく笑っていなかった。
「な、なにもしてないって、うん」
「今、ビデオのスイッチを切ったでしょ?」
「ま、まさか、菜緒さん。そのようなこと、あるわけございませんですますよ、ハイ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
 一瞬、興味が失せたように見えたが、それは錯覚でしかなかった。
「……念仏でも唱えた方がいいと思うわよ」
 刹那──
「ぐはっ! うごっ! かはっ!」
 部屋の中に、すさまじい衝撃波が三度、広がった。
 そして、そこには、すっかり気を失っている部屋の主が転がっていた。
 
「まったく、自業自得なのよ」
「あつつつつ、もちょっと丁寧に優しくやってくれよ」
「うるさいわね。文句があるんだったらやらないわよ」
「……わかったよ、静かにするから、さっさと頼む」
「まったく……」
 溜息をついてはいるが、その顔にはなんとも言えない笑みが浮かんでいた。
「ホントにさ、直哉もおんなじことばっか繰り返すんだから。学習能力、ないの?」
「んなこと言ってもだな。これはある意味仕方がないことなんだ。健全な青少年としてはそういうことに非常に興味がある。むしろ、興味を持たない方が人間としておかしい」
「……それはそうかもしれないけど」
「それにだな、これは将来のためでもあるんだ」
「将来のためぇ?」
 あからさまにバカにした表情を見せる。
「ああ、そうだ。将来、我々人類の子孫を残すという崇高な使命のために、避けては通れないことなんだ」
「なぁにが崇高な使命よ。そんなの、単なる自己正当化のための言い訳じゃない」
「お、バカにしたな? じゃあ、おまえはどうやってこの世に生を受けたんだ?」
「……あのねぇ、そんなことでいちいちムキにならないの」
「なんだぁ、菜緒。おまえひょっとして、知らないのか?」
「ば、バカなこと言ってんじゃないわよっ! そ、それくらいのこと、と、当然知ってるわよ。あ、当たり前じゃない……」
 そう言いながら、相当目は泳いでいる。
「ホントかぁ?」
「な、なによ、その疑いの眼差しは……?」
「いや、別に。菜緒ともあろうものが、男女の神聖な性の営みについて知らないなんてこと、ないだろうと思ってさ」
「せ、性の営み……」
 途端、真っ赤になる。
「もし知らないなら、俺が手取り足取り腰取り、懇切丁寧に教えてやろうか?」
「う、うるさいわねっ! 余計なお世話よっ!」
「ぐえっ!」
「直哉の……バカーっ!」
 そう言って部屋を飛び出していった。
「お、俺が悪いのか……がくっ……」
 そして、またもや意識を失った。
 
「あ〜あ、あのふたり、またやってる」
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